プレイエルでショパンを弾く

ショパン(1810~1849)が愛してやまなかったピアノ、プレイエル「PLEYEL」。お世話になっている調律師さんが所有されている《ショパン時代のプレイエル》を、長時間弾かせて頂きました。

普通にこの楽器に慣れるまで、弾きこなせるようになるまで、かなりの時間が必要だと感じました。この動画も、全く弾きたいようには弾けておりませんが、ショパンが生きていた1840年製のプレイエルの音をお聴き下さい。


ノクターン 嬰ハ短調遺作(カットあり)

バラード第1番 ト短調 (途中カットあり)


現代のピアノとは楽器の構造が違いますので、鍵盤のタッチも、音の鳴り方も、響きの質も全く違います。大きい音を出そうとすると音が割れてしまい美しくありませんので、かなりの奏法の工夫が求められる事を知りました。そのかわり、弱音のニュアンスの幅がとっても広く、様々な音色が出せます。

弾く人がどれだけ一音に意識を払っているか、弾く人の繊細さがそのまま音に出るピアノです。


ショパンが最も大切にしているのは、
繊細な弱音の表現と、カンタービレ(歌うような)な響き。


彼の理想とする世界観は、モダンピアノ(現代のピアノ)ではかなり大げさになってしまうなぁ・・・と、日頃から感じています。音の圧が強すぎるので、細かな揺れを表現するためには、奏法が必要だと思います。実際、ショパンの作品の繊細さを表現しているピアニストも少ないですよね。


ショパンが生きていたら顔をしかめそうです(笑)


私は、シンプルでノーブルな演奏が好きです。さり気ないんだけど、自然に繊細に心の陰影を映し出す演奏。


「ショパンらしさ」を感じる演奏とも言えるでしょうか。



そうそう!!

ショパンを弾く際に、知っておくべき重要な事があります。


ペダリングや強弱記号も、全てショパン自身、プレイエルで弾きながら書いたものです。ですから、現代のピアノで、楽譜通りのペダリングや強弱で演奏すると、ショパンと遠ざかってしまうことが多くあります。


例えば、高音に向かってのクレッシェンド。

プレイエルの特性で、高音域は音が弱くなります。高音に向かって行く際に、音量をキープしたいと考えた場合、ショパンはクレッシェンドを書いているんです。現代のピアノで、書いてある通りにクレッシェンドしてしまうと、ショパンの求めている事とは離れてしまうんですね!


ショパンは大きい音を嫌っていました。そのことを思っても、弱音の美しいプレイエルを好んでいたことを思っても、ショパンのフォルテをどう扱うか・・・変わってきますよね。


ショパン時代のプレイエルを弾くことで、これらの感覚が音として表れ、全てに納得するのです。



とはいえ、ここに書いたことは、全て知識として大切な事。


最も自然に彼の作品にアプローチするには、寄り添い、同調することだと思います。そのくらい、同調を必要とされる作曲家だと、私は思います。